あなたのノイズ、わたしのミュージック。

自分が何にどう関心を示したかの記録。

2020/2/8 波多野裕文 "似月の独奏" 感想

2/8、京都の紫明会館にて行われた、波多野裕文さんのワンマン公演"似月の独奏"を観に行きました。


osouonna.hatenablog.jp

上記記事同様、当日書き残していたメモを基にした感想です。
印象か言葉かをとっかかりにして音楽を把握しがちな性質を持つ者の文章でありますため、
あまり仔細・正確なレポートではないことをご了承いただけますと幸いです。

また、新曲群の特徴や聴き取れた歌詞の断片は、ひとまず今回の分は上記記事を修正する形で記しています。
そんなに熱心なライヴレポーターではないので今後どうするかは未定ですが……。


1932年に京都府師範学校の同窓会館として建てられたのが、今回の会場、紫明会館。
文化財に指定されておりますが、設備を市民に貸し出すという形で今でも活用されている建物です。
講堂は今回のように、小規模なコンサートの会場として使われることも多いようです。
……といった建物の背景などそっちのけで「レトロ建築で波多野さんのソロが観られる!観たい!」って直感のままに予約を入れてしまったのですが……(よく考えなくても建物に失礼だし勿体無かった、いかにも歴史に価値を見出してますよみたいなポーズとっておきながらそれについて事前に掘り下げて来なかったなんて……)。
しかし知識のない状態でも、講堂までの階段に沿った縦長の窓達、深く落ち着いた暗さを湛えた木の床といまだ白く保たれた壁の対比……直感的な美しさを感じられる建物でありました。


曇り気味でも日が落ちてゆきつつあるのがわかる、夕と夜の隙間のようなタイミングに開演。
この日ほとんどの楽曲は、エレアコをストラップで提げ、立って演奏するスタイルで披露されました。珍しい……?
その位置関係もあるためか、座って観ているわたしたちの頭上に放たれてゆく歌は、
わたしたちの存在など意にも介さず、自在に舞っているかのようでした。


以下がセットリストとなります。

1. "おくりもの"という歌詞のある曲(正式タイトル不明未発表曲、以下"おくりもの"と表記)
2. 猿
3. ハリウッドサイン
4. 青空を許す
5. ぼくが欲しいもの(新曲)
6. 恋ト幻(有村竜太朗さんとの共作曲カヴァー)
7. 飛翔(橋本絵莉子波多野裕文のセルフ?カヴァー)
8. 帝国と色彩(新曲)
9. Love and Anger(Kate Bushカヴァー)
10. 猛獣大通り(新曲)
11. ある会員(新曲)
12. 雨の降る庭
13. 同じ夢をみる
14. 初心者のために(新曲)
15. 水のよう(未発表曲)

前回みたいにひとつひとつ取り上げていくとまた1万字を超えてしまいそうなので、流れを意識しつつ極力手短に……。


入場した波多野さんは、高音の調子を確かめるかのように、声をゆっくり笛の音のように伸ばしはじめました。
繰り返される声のような音のようなそれに聴き入っていたところ、
ふいに"おくりもの"のイントロのギターが重なってきて、
発する声もその歌の音程に切り替わっていきました。
私の日常がじわりと別の人の日常へと切り替わってしまったかのような、ぞくぞくとする導入でした。


歌の話ばかりになってしまっているしこのままだとこれ以降もなってしまいそうなのでこのあたりで一度整えますが……。
この日の波多野さんはご自身の歌を声色・演奏とのバランス等の色々なパラメータを試すように発しては、
静かに存在する観客をも含めた部屋からのフィードバックを受け取っている、
といっても、それら自分以外のオブジェクトからの反応を伺っているのではなく、ただただ自身の知覚に返ってくるものを楽しんで、また歌を放つ。
持ち前の実験精神を活性化し、マイペースに表現の創造を行っているような印象を、特に上記のような歌い方から受けました。
ライヴ全体を通して中音域がいつもより豊かに聴こえ(PAさんの趣味だろうか?)、
それが発声のはっきりしたところをより引き立ててもおりました。

実験は実験でもシリアスかつシビアだった1月とはまた違った感触で、
というかそのイメージを引き摺ったままこの日を迎えたので戸惑いながらも、
窓の外が暗くなってゆくのと同じくらいの速度で、解析のための凝り固まった意識が解れてゆき、
それはとても気持ちが良いものでした。



↑後ろにある上向きの白いライトに照らされた波多野さんの影が、天井を揺蕩っていて、それにも目をやらずにはいられなかった。

ライヴの流れに戻り……。

ギターの音と音の間隙に言葉のはまり込む感触が快かった""。
その存在が遠目にもはっきりとわかる現物のようにスポークンワード部分を一節ずつたしかに発していた"ハリウッド・サイン"。
ギターで精密に織られるアルペジオの網を歌がすり抜けてゆく"青空を許す"。
序盤のこれら既存曲たちの安定感(とはいえハリウッド・サインはこれまであまり演奏されてきませんでしたが)に落ち着いていたら、
1月のワンマンの2曲目、早々に観客を沈めてきた新曲の"ぼくが欲しいもの"が投げ込まれてきて、思わず粟立つ。

この新曲が今の構造になってから聴くのは2度目になります。
後半に少し行き戻りを繰り返す箇所はあるものの前半にはけして戻っていかない、
しかしあの印象的なギターリフが杭として打ち込まれているため楽曲としてのまとまりを失っていない、
1月よりは少しだけ冷静に聴くことができたのか、そのつくりの巧妙さに関心が向きました。
でもやっぱり、ひんやりとする曲ですね。


少々のMCを挟み会場の気を緩めたところで、
『僕が制作に携わったけれど僕のものではない曲(言い回しはうろ覚えです)』をカヴァーするとの宣言があり、
そうして放たれたのが有村竜太朗さんの"恋ト幻"と橋本絵莉子波多野裕文の"飛翔"。

あまりにもびっくりしてメモもほとんど取れなかったのですが、
"恋ト幻"では波多野さんと有村さんの共通点、歌唱スタイルが違っているからこそ炙り出された、両者が宿しているのは無垢であるということが、
"飛翔"では波多野さんと橋本さんの相違点、橋本さんのもつものは無邪気であるということが、
それぞれ如実に感じられ、興味深いものでした。

それはそれとして、"飛翔"のサビを歌う波多野さんは気持ちが良さそうだった……。
直後のMCにて、『"飛翔"はずっと歌いたかったものの、ふたりで作ったものという認識が強かった曲であったため遠慮していたのですが、
先日えっちゃんが"トークトーク"の演奏をしていたという風の噂を耳にしまして……"あ、これはやっていいな"と確信を得ました。』と仰られていたのですが、
これは本当にやりたかったんだろうなあと、思わずこちらの顔が綻んでしまうほどの歌いっぷりでした。


次の2曲は勢いの強い、この日の豊かなヴォーカル及びスタンディングでの演奏により力強くなったストロークのギターが最も映えていた"帝国と色彩"と、
よくカヴァーの題材として採るKate Bush……のこれまでカヴァーしてこなかったという楽曲(何故ここで捻ったのだろう)"Love and Anger"。
とはいえ一様に勢い任せというわけではなく、
前者には焦燥、後者には繊細さ、それぞれに適切なニュアンスを乗せて疾走感を描き出していました。


美しいメロディと『落ちていく』という言葉の多用が、あたまに焼きつく痛みとして残る"猛獣大通り"によっていよいよ後半へと突入し、
"ある会員”、"雨の降る庭"と落ち着いたトーンの楽曲に続いて披露されたのは、
波多野さんソロの中でも象徴的な存在感を示している楽曲"同じ夢をみる"。

この日のセットリスト、意図があったかどうかはわかりませんが、波多野さんの多彩な作家性が強調されていたものであったような気がしています。
(ソロ曲・共作曲という切り口がまず分かりやすく開いていたがためにそちらへ思考を流せたのかもしれません)
歌や演奏の表現・楽曲の構造・言葉の用法……といった要素のそれぞれが、
「波多野さんは〇〇な音楽家である」のような断定を拒むかのようにコントロールされている、
また時にはあえてコントロールを失わされたままでおかれている、
その絶妙な捉えどころのなさにより、多彩と表すので私には精一杯なのですが……。

このブロックで披露された"ある会員"や"同じ夢をみる"は、
波多野さんが複雑っぽく見えるものしか作れないのではなくてストーリーの通った把握しやすい楽曲を作ることができる、
逆説的に、複雑なものもそれっぽく作っているのではなく複雑に作り込んでいるといえる(論の運びが荒いのは私の能力不足)、
この音楽家の難儀な魅力を証明してくれたものでありました。


最後の2曲は紫明会館備え付けのアップライトピアノにて。
1月のワンマンでもピアノの豊かな響きとの合致が印象的であった、そしてこの日以降勢いのあるイントロの和音が頭から離れなくなった楽曲"初心者のために"、
そして簡単な終わりの挨拶(前回を反省してかアンコールの無いことを明言されていました笑)を言い終えると同時に和音を放り、"水のよう"を披露。
"水のよう"の、A・Bメロの小節頭に和音をそっと置き、サビでぱっと色付くようになるメリハリのある演奏、
また黒いアップライトピアノに映り込む、波多野さんが口を大きく開げ、軽やかに歌う様子、
それらの記憶は、公演が終わり人々が席を立ち始めてからしばらくのあとにも、永く美しい余韻を私に残していました。


去年秋CDにサインを頂いた際のお礼&お詫びとして手土産とお手紙をお渡しするため、物販が空いたタイミングでお話ししに行くつもりではあったたのですが、
"恋ト幻"が披露されたことによって頭がだいぶ混乱を極めており、そのお話まで突っ込んでしまい話がごちゃついてしまい……お詫びしに行ったはずなのにご迷惑を上書きしてしまったような……。

"恋ト幻"のトラックメイクが自信作だとMCで仰られていたのが嬉しかったあまり、その録音作品がとても緻密で素晴らしかったのです、とお伝えしたところ、
『何をされたところで負けるはずのない有村さんの歌声があったからこそ、何でもできたのです、勝ち相撲です』といったナイスなお答えが返ってきて、
なんかもう何もかなわないわ、と敬意と諦めの入り混じった心境になったことを覚えています……。

また、これまでの共作(有村さんや橋本波多野、delofamilia)のお仕事では、波多野さんが中心となって行う制作では出ない部分の魅力が顕れており、
もっといろいろなパターンのそれを知りたい!という願望が個人的に強くありまして。
こういった共作のお仕事はまたされないのですか、と恐る恐るお伺いしたところ、
『お話が来ないことにはね……。』と寂しそうなニュアンスのお返事が返ってきました。

……関係者の皆様!
波多野さんに共作の案件を!!
他の音楽家のアルバムプロデュースとかもめっちゃ聴きたい!!!


取り乱しましたが以上です、
コンセプチュアルな公演というわけではなかったことだけでなく、講堂という環境の新鮮さもあったためか、
1月のワンマンの記憶を引き摺らず、良い意味で"現在のモード"を意識せずに楽しめた公演でした。


東京の感染状況が拡大していなければ、今日私は波多野さんが行うワンマン公演を観に行くつもりでした。

高松のライヴハウスの空きを埋めるべく名乗り出たようで、最も尊敬しているこの音楽家の取った行動を支援したい気持ちだけで行こうとしていたため、
東京都の週末外出自粛要請を受け、キャンセルせざるを得なくなったときは非常に悔しかったのですが、
この感染拡大を受けて各国の状態や感染の特徴等を調べたことにより、
私の情報収集・衛生管理能力でこの旅行を決行するのは無謀であると、自分自身で納得することもできたため、
結果としては取りやめて良かったのだと思っています。

私のことはともかくとして。

どうか、今日あの会場にいる皆様(演者・会場の方々・観客の方々)が、
意義と音楽に満ちた時間を、無事に過ごせていますように。