あなたのノイズ、わたしのミュージック。

自分が何にどう関心を示したかの記録。

活動一覧

 近影にかえて。


 これまでご縁あっていただいたお仕事などの活動をまとめました。
随時追記いたします。


 私は積極的に自分自身の能力を売り込んでゆける性質をしていないため、この記事に並んでいる活動は、なにかしがの理由や意図をもって私を選択してくださった方々なしには、世にあらわれなかったものがほとんどとなります。
私が自分の活動をひとところに留め置き、履歴として、時間に押し流されゆく摂理に抵抗することが、お声掛けくださった方々の活動を、また別のだれかに知らせる機会となるかもしれない。
かなり希望的な観測ですが、そんなご恩返しのようなことができればいいなと思いました。

 単純に、他の誰かに選んでいただけるのは個人としてとても嬉しい出来事ですので、その記憶をなるべく長く留めておきたい……みたいな下心も少なからずあるのですが。


  • LOCUSTレコメンド 「①れみどり meet α's eyes――2020年代初頭に読む『ヨコハマ買い出し紀行』」(2021)
  • 痙攣 Vol.2 もう一度ユートピアを 国内音楽特集「#001 世界への問いかけ ーPeople In The Box論ー」(2021)
  • 雑誌ヌガー 連載エッセイ『無関係の使』 (2022-)
  • LOCUST Vol.6 会津中通り 〈福島〉というパリンプセスト 「「わたし」の融けたさざえ堂」(2022)
  • People In The Box『Camera Obscura』特設サイト内インタビュー (2023)
  • おまけ
    • 連続型確率変数 (2023-)
    • お笑いライブの企画
    • note
    • ラジオ「お笑いライブの犬」(2023-)
    • イヌアザラシレンタルサービス
続きを読む

solution

 まとまったら直して綴じて売るかもしれません。


(2024/12/16追記)
 各掌編について、サークルメンバーうに村くんがお返事を書いてくれています。
随時更新とのことです。
あたたかく見守ろう。

(2025/01/08追記)
 仮置きですが、アイキャッチ画像を追加しました。



solution

「私は、魂を磨いてもらいたくて、あなたのもとにやってきました。
だからそんな、卑下を試みないで」




solution 1: 揺籃から方舟まで

 指を折って、節を付けて、言葉をあてがっていく。そんな行為に立ち会ってみてどうだった?ばからしく、思えただろう。ああ、いいんだ、俺がそう思っているから。君に言わせたかったとも思っているから。
「でも、自分でも試してみようと思えました」
 ああありがとうありがとう、薬だよおまえは。どんな試みにも意味を見つけようとする勤勉な君が、俺のもとにいてくれる、どんなに幸せなことだろう。可能なら君には俺のすべてを試してほしい。それは献身とは異なる欲望かもしれないがね。

「あ、えっと『えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい』が好きです。そうです、笹井宏之さんの。他にも何人か、好きな歌人がいたはずなんですけど。ちょっと今は作品とセットで思い出せる人、いないですね。でも現代短歌って総じてあんまり好きじゃないんですけどね私、」
 それ以上喋るな。君のために。俺がその輪の外に出ていったからって、心を許しすぎている。心を許すことの何が悪いかわかるか?勝手であること?君だって、本当にそれだけだとは、思っていないだろう。
 君は、その手段が自傷に向かっていないというだけで「構ってもらうまで何かをしてみせる」との性質をしっかり携えてしまっているんだ。今のだって、制止されるための開示だ。俺はさっき君に対して「薬」だと言ったが、君自身には薬としての君はてんで効かない。君は傷ついたら傷つくんだよ。
 そんな顔するなよ。君が悪いことをしたみたいになる。そろそろ君のために調えられた薬を飲んで寝よう。
 あと、その歌は、俺だって好きだよ。きっとみんなだってそうなんじゃないかな?切実だから。

 君が何をしたって、どこにも行かないよ、永遠に。俺は歌をまとって公共物に擬態している。永遠を生きていくんだ。「永遠」というのは人間の知覚するサイズで充分なんだけど、というのも唱え続けていてほしいからで。だからまあ、人類史の過程で発語する別の生物が現れたのなら、そのときは引き継ぎをしてほしいかな。つがいだけ、要所だけを残すんじゃなくて、できれば君が知っている、すべての歌を。身体が耐えられない洪水をも生き抜く力として、言葉を。
 眠たくなってきたか。電気を消すよ。明日目が覚めなくたって、歌を思い出すんだ。永遠に大丈夫。大丈夫だから。



solution 2: 孔雀の使い

 保健室の前は飼育小屋だった。孔雀がけたたましく啼いたら春なのだと、ムツミはもとより意識していたが。あまりの強烈な音量に、つい顔をしかめた。
「春はどうしてもこうなのよね。慰め程度にしかならないかもしれないけれど、カーテンは閉めておくから……」
 校医は1日に何回、これを言わされているのだろうと、ムツミは同情した。この世には孔雀に言動の一部を支配される人間がいるのか。

 健康優良児のムツミには珍しいことだったためか、頭痛のほかに目立った症状もなかったものの、保健室での休憩を打診された。担任教師も比較的健康な人間なのだろう、この時期の保健室は頭痛で休むには向かない環境であるとは、思い当たりもしなかったようだ。
 カーテンの隙間から腕が生えた。
 腕はアズマと名乗ったが、ムツミには心当たりがなかった。カーテンを少し開き窺うと、だろうなと納得してしまうほど華奢な、知らないこどもが立っていた。

 アズマは保健室を根城にしていた。それはただただ身体機能が弱いためであり、社交性や好奇心はこども相応のものであったようで、保健室にやってくる急患たちへちょっかいをかける趣味がうまれたのだと話す。ムツミは校医のいたほうも覗き見たが、孔雀の嘶きで気が付かなかったのか、ムツミの症状がさほど重たいものではないから交流させても大丈夫だと判断されたのか、とにかく見える範囲には来ていないようだった。
「保健室の先生って、1日に何回くらい孔雀のことで謝ってる?」
「多くて5回」
 1日に来る人数とほぼ同数と考えると、平和な学校だ。アズマが積極的に絡んできたのも、さほどないチャンスであったためと考えれば納得がいく。孔雀だって、求愛する相手が見当たらない小屋の中にひとりだから、あんなにも大きな声で啼き続けているのだろうし。
「さみしいのかな、孔雀も」

「でも、きみくらいの虚ろがちょうどいいって、仰られていた」
 返事に違和のみを感じムツミが怯んだ途端、アズマはムツミの首筋に右手を差し入れた。

 首の側面に沿わすように、ひんやりとした掌が張りついた。孔雀が啼く。警報だったかも。わからない。意識の中にアズマがやってきて、現実ではムツミはもう諦めている。
「きみを、あの方へと献上する。あの方のひとりきりの心を支えられるよう、人間の形から1枚の羽根へと変換され、挿し込まれる。まだまだ足りないみたいなんだ。
 心配しないで。羽が開かれるたび、きみは世界を感じられる。美しく輝く目玉模様だから、たくさんの人々から見留められるかもしれない。何も知らない人々から、知ろうとすらされずに」

 孔雀が啼く。人間の叫び声を素材にしてつくられた、警報みたいだった。



solution 3: 起爆装置でもある

 突如として、外界は丸ごと怪獣になった。
 その時期ぼくは留守番が多く、ぼくのため居間に建てられたジャングルジムや滑り台に寝転んだまま1日を過ごしていた。ぼくとは逆に、怪獣は腹這いの姿勢で、絶え間なく唸っていた。
 背びれにはすすきが連なっている。観察から、空が青くても白くても、すすきの穂が揺れるさまを認識できると気がついた。色彩よりも目の機能が、はっきりとしている。
 自分が飽きにくい性分であることを、こどもながらにだんだんと自覚してきた時期でもあった。見つめて、知って、満たされる。そこに他者の価値判断は食い込む隙もなかった。

 いつしかぼくは、排除の対象になっていた。爬虫類も人類も、ついでにそれ以外ももれなく嫌いになったが、それは怪獣が見えなくなった理由には接続されない。カラスウリにぼくの石だけが届かなかった。それだけのことでぼくは転落したのだった。転落した先では、もはや怪獣なんてものは必要とされなかった。怪獣まで届くようナンテンの実を投擲する方法を考えた日々はまったく役に立たず、今があって今があって今があるだけ。
 舌にトカゲの尻尾の感触がある。感触は「今」そのもののように思えてしまって、嫌いになったもののひとつ。味も臭いも音もおなじ。

 十数年後、独り暮らしをはじめてすぐの街にて、僕は再び怪獣をみた。こどもの頃に見たものが当時よりもずいぶん小さく見えるというのはよく聞く話であるが、この場合イルミネーションがぐるぐると巻かれていたことも関係していただろう。
 知り合いの誰ひとりいない街を選んで住んだ。それだけで、僕は一切の困ることをやめられた。「今」を置き去り、あまりにもあっさりと、僕は生き延びたのだった。
 僕の力なんて、なにひとつ必要なかった。
 今度の怪獣は唸り声をさせないかわりに、夜になると瞬いた。視覚だけを許していた僕に、歩み寄ってくれたような気がして、その瞬間、願いが奔出した。

 僕はもうこれ以上要りません。ぼくははじめからこれで充分でした。

✁無論、彼は否定された。彼はもう生きていかれないのだと悟った。
 無論、彼は肯定された。彼はもう生きていかれないのだと悟った。



solution 4: [頻繁なアクセス]

愛しておくれよ 嘘を / 世界の全てを
(LOSTAGE “母乳”)

 火球を飲み込んだら(そうだ!しっかりと飲み下せるよう、オブラート的に作用する皮膜を纏わせておこう!)。酸性の蒸気を起こしながら、強引に胃袋の内壁を破り、より深くまで沈んでゆくのだろうか。そのようなまどろっこしい工程など経由せず、瞬く間に、燃やされた身体がちぢれたシルエットとして出力されるのだろうか。
 ごとり。
 そして火球の行方を知るものはいない。

 みんなを燃やし尽くしてしまって、それでもまだ私には自我があり、憂鬱である。
 私は私の意思で誰も残さなかった。少なくともそのつもりで、ひとりひとりを丁寧に燃やした。燃え落ちるまでを見届ける行為は、観察の域を越えている。ときどき感謝すらされたくらいだ。
 最後のひとりを燃やし終えると、拍手が遠くで鳴っていた。つまりこの行為は、私が私のためにおこなう類のものではなかったらしい。その旨を知らせるためだけの拍手なのだろうか?であれば、今後聴こえることはないだろう。心の底からホッとした。

 西九条駅前には当時丼ものチェーン店があって、私はそこで2時間くらい、東京へ帰るための始発を待っていた。あーあって気分ではあったけれど、橋で渡された3万円以外に、目立った外傷はなかった。それは相手が結局、優しい人だったから。
 大久保駅では本当にひどい目に遭ったわ、と思い返す。京都のどこか、長屋の多いあたりでも。私は破滅的に生きていきたい訳ではないのだが、予測できない、楽しいことが好きだから、これからもこういうこと、あるんだろうな。
 そう思えていた頃が本当に懐かしい。懐かしいけど、全部許している。

 惜しみのない拍手を注いだ。彼女の記憶が燃やした、すべての街に。もちろんこの地にも。
 燃やし尽くすまでのシミュレーションを済ませたから、彼女はいまこの部屋に存在している。薄い掛け布団に包まって、やはり飲み下しやすそうだ。でも、人であるうちに飲み込まれてはいけないよ、死ぬまで苦しむんだから。
 旅館の窓からは海と日の出と鉄道橋が見える。音も聞こえる。生きている。そして、5年後にもここの食事を思い出すって、伝えたら喜ぶんだろうけど、でもきっと一緒には来ないんだろうと悟る。ああ、すべてはここに揃っているのに、記憶することしか許されていない。
 せめて、何度でも燃やしにおいで。



solution 5: とどまるところ

 税金の話でインターネットが盛り上がっているときとかに思う。わたしなんて、あなたの頭の中であなたの好きなように蹂躙され破棄される、無名のイメージであればよかったんだって。
 それって、なんでも恋に接続したいだけなんじゃない?そうだよね。

 一日じゅう、こんな風にして勝手にあなたの頭を複製してる。表情にバリエーションのないあなたの頭部が、わたしの頭の中には詰まっていて、そのすべてがわたしを痛めつけては棄てる想像をしている。それをわたしは想像している。
 わたしはあなたの嗜好を実はちゃんと知らないから、そんな想像をさせられるのは苦行なのかもしれない。わたしはあなたの苦しむ顔をほんの少ししか知らないから、もう考えたくないって表情に出してくれていたとしても、気がつけてないのかもしれない。頭部のみであろうと複製であろうと、あなたには違いないのに。尊重していたいのに。

 遮断機が下りる前から、わたしは線路にぴたりと横たわっている。ここから絶対動かないでねって言われて、それきりこのわたしはあなたの声を聞かない。あとは電車がやってくるのを待つだけ。あなたは乗客でも乗員でもない、そうであってはならない。もともとこの頭のどこにもいないんだし。
「ここから」「絶対」「動かないでね」なんて話しかけかた、実際にはしてくれるのかな。疑問を浮かべた頭が、複製されたあなたの頭をぎっちり詰め込んだまま、吹っ飛んでゆく。
 こうしてひとつのノードが潰れたとしても、わたしに酷いことをしようと考えるあなたの頭を、わたしがどんどん複製するし、複製されたあなたもどんどんわたしに酷いことをしようと考える。あなたが複製されていくたび、わたしも増えたり消されたりする。わたしがあなたを考えているうちは、ずっとわたしは、ひとりじゃない。
 わたし以外は全部わたしの想像だから、結局わたしは1なんだけど。それはともかくとして、あなたを想えているうちは、わたしは遮断器が下りるのを、ちゃんと待って暮らしてゆけるんだよ。



solution 6: solution

 羽ばたけるのか人間はそれなりに自由に。諦めた表情の人々が仕方なく駆ける空を、三階の窓から見上げている。

「ああぼくはそのひとつへ手を伸ばすだろう」
 きれいな記憶のひとつに、利用者の少ない野外プールの底に留まって、弱い視力で陽光を見上げた日々がある。誰にだって同じように見えたのではないかと、いまだに信じてやまない。
「ああぼくはそのひとつへ手を伸ばすだろう」
 ひとつに、マーク・ロスコシーグラム絵画。取り囲むように配置された7枚の大きな赤い窓、その奥行き。呑まれて吐き出されてを繰り返し、絵の中に取り残された自分の滓は、きっといまでも安寧でいる。

 誰の姿も見えない、隔絶された場所で、ひとりになることが好きだ。というより、必要だ。だから空を飛ぶのも、自分にはきっと良いことなのだろうと思っていた。これほどにまで他人が飛んでいて、飽和してしまっていては、台無しだ。
 そしてこの三階のオフィスにも人々が満ちている。各々が、自然に余裕があると見せながら自身を守っている。
「会議室が取調室のようで嫌いでした。あんなところで『面談』をして、復職させる気なんてきっと最初からありませんでしたよね」と書いたまま送ってやろうかと少しためらって、「面談」のディテールだけ詰めて、結局送った。私を諦めろ。

「ああぼくはそのひとつに手を伸ばすだろう」
 授業を飛び出して学校の外に出たから、音楽教師に追われていた。1kmくらい歩き続けたけれども、諦めてくれない。丘の上のあまり大きくない集合住宅の、ピロティとなっている駐車場の車の陰に身を隠して、息を整える。金網越しに、薄く曇った空が、敷き詰められた住宅地を宥めるかのように穏やかだ。まだ、誰ひとり飛んでいなかった。あの時に飛び出しておくべきだった。

 少しの弁明が添えられた、退職の意思を受け入れる旨の文面を受け取って、立場が対等でないからこそなせるわざだなと思った。
 三階から屋上か。めんどうだな。一階に降りて歩きでビルを出て、とはいえ新宿にはうってつけの隔絶なんてないから、どこまで歩いて行こうか。エレベータを呼ぶボタンに手を伸ばす。



solution 7: 躁転コール

副題: You play sick and I will mend

 道程を整備する仕事。誰もそのとおりには動かなくて、だから神話になどなり得ない仕事。ひとびとの翅を融かして、ぞくぞくと地表へ。

「絶対に違うけれど、虫のように思えるんです、身体は」彼女は続けて「指を、骨を意識しながら、逆向きに折る想像を止められなくなっています。蜻蛉の死骸を踏んでしまったときのような感触で折れてほしい。もちろん、想像するのは自分の指についてのみですし、ほんとうには自分にだって、痛くないほうが望ましいのです。だから安全」
 いつからか、この番号は天のコールセンターと呼ばれていて、いかにも天使のいそうな場所ーー屋上や礼拝堂、難民キャンプ、電柱の頂、駅、そこかしこーーに掲示されていると聞く。余談だが、即座に繋がるためか「ソニック・ナース」とも呼ばれているとか。Hey hey little baby breakdown.やめときなよそんなこと

「指を折る話、他の誰にもできなかったので、話せてほんとうに良かった。こんな些末なことですら難しくて」
 電話の相手は、どうもさっきから「ほんとう」に拘る。ほんとうのことを言いたくて仕方がないみたいに。それを言うところでもあるってわかっていそうに。
「好きな人に『好きですよ』っていくらでも言える状態に、はやくならないかな。苦しくて……好きって気持ちが押し込められているから、呻いてしまう。エレキギターとかの歪みとおなじで」
 自分自身の中では密に連動しているのであろうイメージを、その説明もろくにせず渡してくる癖。きっと彼女を魅力的な存在にしてくれている癖。なんて言い聞かせたところで、こういった手合いは理屈より早くそのことを受け入れているものだが。でも、ひとつひとつ言葉にして、あたえる。仕事が、人の世が、壊れるまで!

「ありがとうございました、天使様。……ひとつくらいは心があるものだと信じていたいです。この電話の先に」誰もいなくても?「誰もいなくても」



※solution 8と9は、欠番になる見込みです。



solution 10: Virtual Psalter

 狙いを定め、射止めた。あとは引き寄せればハギのもとに「それ」はやってくる。「それ」は暗いところに落ちていた。「それ」は光らなかった。しかしハギには視える。ずっと視えている。
 擲たなくても得られるものなどありはしないと、はじめからわかっていたから、ハギに容赦はない。「それ」が血を流すからといって、矢を放つことを躊躇ってはならない。躊躇は相手のことを考えて生じるものではない。
 ハギにはずっと視えている。後のことも。しかし、肩を落とす後ろ姿に、ひときわ暗い影に、できることなら後頭部に、突き刺したいから。その一心で、今回もすべてひとりで成し遂げた。

 理想とする地は、想像のなかにだけあるといい。
 だから、楽園の外にあるのは混沌ではなく、このとおり、わたしたちの暮らし。そう思い込むことで、わたしたち人間は、生き延ばしてゆける。
 ハギ。あなたが大義名分のために自分自身を破壊しながら炸裂させた爆弾の破片で、あなたを滅多打ちにしたい。ハギ。あなたの慈しんだものを片っ端から食肉にして、喰らうわたしこそが証になりたい。ハギ。それらが叶ってしまうのが、わたしたちの楽園なのです。皆が思うままに成し遂げられることが前提なのって、まったくありえないよね。
 わたしたちは楽園にいないから、生きることを赦されているのです。

 ハギは「それ」を手放さないと決めたのだった。
 手元までたぐり寄せた「それ」から矢尻を引き抜き、腕のなかで傷を手当てし、耳打ちで何度も励ました。「生きている、きみは生きている、今のきみがどう感じていようともーー」
 どれくらいの時間が経ったであろうか。「それ」は意識を取り戻した。そして、振り返らず、輝く街へと歩みを進めてゆく。目には光を。
 見守りながら、ハギは自分が仕事を終えたことを悟る。しかし手放さないでいることには変わりない。「それ」はきっと、またハギの矢を受けるだろう。

 わたしたちの親愛なるハギ。
 あなたは問われてここに来た。シンの暗号を解く役目を与えられ。影をもつ黒子として。そのやりかたがあなた自身を赦すように、あんな楽園の存在がいまもなお認められているのは、わたしが想像をやめられないから。わたしの想像が最悪なせいで、誰にとっても最悪の仕組みが成り立っている。
 荒野に生きるハギ。あなたの仕事が、これからも、なにごとにもなりませんように。



solution 11: いなくなるための嘘

 電車が止まったその駅には城趾がありました。復旧まで時間がかかるとのことでしたし、今日が行くべきタイミングだったのだと理由をつけて、下車したのでした。
 ここは私の人格形成にはまったく関係のない街でしたので、今はもうない、通っていた幼稚園の園舎を思い出しながら歩きました。下手に関係がある街でそれをすると、ほんのわずかなきっかけで記憶が掻き消えてしまう、そんなような予感がありました。思い出すには、床から思い出すとうまくゆくのです。ゆるやかな幾何学模様。タイルの境目には、鈍いメタリックカラー。私は足元ばかり見て歩くこどもで、大人になろうとしている今日もまだ、その傾向にある。暗い赤のタイルがあらわれると、その先は地下への階段です。
 地下には講堂がありました。こども向けのミサや音楽会などをするところだったような。壇上に卵がひとつ。いつから置かれているのかはわからないため、卵の中身は無くなっているものと仮定します。手にとって、心の準備ができたのなら、一度きりのフリーフォールを。
 郭であったことを示す碑が、足元に見えました。辿り着いたそこは、切り拓かれ平らに均された空間。城であったことを示す証拠があるから、この空間は保たれています。高台になっていて、木々の間からは住宅街が見えました。ここは、この先もずっとそうなのでしょう。
 落ちた卵は割れました。予想に反して黄身と白身が流れ出し、板張りの床を汚しました。危ない。あと数cmズレたところに刺さっていたら、脳への損傷は免れなかったそうです。ゆっくりとでも目覚めることができて、感謝しなければならないのだと、私は窓外の曇天を眺めながら思ったのでした。
 私は城趾に似ていましたか、それとも卵でしたか。身体がぐちゃぐちゃになった患者を治したあとで、また飛ばれてしまったことがトラウマになっているらしいと、外科医の娘から聞きました。その話をされた私に、表情はありましたか。講堂から駐車場へとひらけている、一面のガラス戸。射す光はいつも曇りの白だったような気がします。床を汚していた卵の中身は、いつの間にか消えてしまって、追憶も、今も、いつもいつも足元から閉じていくのでした。

「あんず村」という名前の喫茶店にて。3年後の私は、食後のコーヒーをいただいていました。各卓には手のひらサイズのノートが、来客が好きに読み書きできるように置かれています。これらに書き留められた軽めの日記を眺めている時間が、私は好きです。もちろん私自身も、読ませてもらったお礼というと恩着せがましくなってしまうかもしれませんが、都度書き残すようにしています。
 私が、私という枠をもっていたことを示してくれる資料の、ほんの一部。たくさんの目に触れて、脳に焼かれて、いや、コーヒーとともに喉の奥へと流し込まれてしまってね。仮定してもらえなくたって、きっと生きてはいけますけど。

ほしいものリスト

 4/23で31歳になりました。

 誕生日を迎えた人間はほしいものリストを公開しやすくなるのだと聞きました。
ということで、皆さんから私に買い与えてほしいもののリスト、ではなく、
私が皆さんにも買ったり見たり試したりしてほしいもののリストを公開いたします。

 早い話が、おすすめってこと!

続きを読む

2023/5/10のPeople In The Box『Camera Obscura』

 批評ではなく、その時々でその作品に寄せた関心事ばかりを記してゆく文章。

People In The Box『Camera Obscura』


www.youtube.com



 音楽を止めるのは、他でもないあなただ。

続きを読む

2023/2/2 ガクヅケベストコント6本ライブ「ヘアスタイルかわいいですね」開催後記

本文より大事なCM

ガクヅケ単独ライブ「ロングバケーション
2023/3/16 開催決定🎉
16時回と19時回の2回公演🥳
公演詳細・チケット情報等↓

www.maseki.co.jp


はじめに

ガクヅケベストコント6本ライブ「ヘアスタイルかわいいですね」メインビジュアル。長良鮎武さん(Twitter: @moskuwamos)に依頼いたしました。

 お笑いライブ主催団体のライブマンさんに主催代行をお願いいたしました、
ガクヅケベストコント6本ライブ「ヘアスタイルかわいいですね」が2023年2月2日に開催されました。
tiget.net

 ご来場くださった皆様、行きたいと思ってくださった皆様(平日夜開催・配信なしとなりごめんなさい)。
尽力してくださったライブマンスタッフの皆様。
R-1準々決勝前日にもかかわらずこの日だけのアレンジを効かせてくださったゲストの寺田寛明さん。
そしてガクヅケのおふたり。
本当にありがとうございました!!!

続きを読む