あなたのノイズ、わたしのミュージック。

自分が何にどう関心を示したかの記録。

2021/2/5-7のscreen time / Thurston Moore

批評ではなく、その時々でその作品に寄せた関心事ばかりを記してゆく文章。

今回は備忘録に近いかもしれません。


2/5、2021年最初のBandcamp Friday当日。
Thurston Mooreはアルバム作品『screen time』をサプライズリリースした。

Bandcampの配信ページにもリリース告知のツイートにも作品に寄せての解説・補足は無かったが、
(現時点では)唯一URL付きでツイートされているメディア、RollingStoneの記事に短い声明を出していた。

このプロジェクトの展望--架空のフィルムノワールに宛てられたサウンドトラック--に次いで、
Mooreが語るところによると。

“While our societies have become wholly engaged with the virtual universe of online interaction the work of filmmakers, musicians, painters, poets and dancers continues to offer dreamworld expressions of both reality and the imagination,” he said. “Art is an offering. When you open up your screen, send a message of love and gratitude to someone. If it’s within your means, send aid to those in need.”

引用元: Thurston Moore Releases Surprise New Instrumental LP 'Screen Time' - Rolling Stone

ざっくり要約してしまうと……。
この時代においても、現実を・想像力を表現し続けているアーティストたちへ、愛と感謝を。
もし、それが取りうる手段であるならば、必要としている人々への援助を。

つまり、Bandcamp Fridayの日に投下されたこと自体がひとつの問題提起であったようだ。

しかし、本作はそれで役割を終えてしまうようなものではなく、
ひとつのアルバム作品としてしっかりと受容されるべき仕上がりとなっていた。


配信ページの情報によると、今作は作曲・演奏(全編ギター?"the view"でメインをとる音は鍵盤楽器のようでもあるが……)・録音・ミックスはMoore本人がこなしているとのこと。
ゲストの多かった去年作『By The Fire』とは打って変わって、というか、
ここまで徹底してひとりに閉じて作られ、リリースされたものが過去にあっただろうか……?

ただそういったバックグラウンドを把握せずとも、
彼が彼ひとりで描きたかった緊迫感が、閉塞感があったのだと、
容易く感じ取れるのではないだろうか。


映画の場面ごとに割り当てられた歌のない楽曲たち。
タイトルはある対象を示す語であることが多いが度々逸脱し、
その場合聴き手の知覚には主体の視界が転写される(おそらくは)。
しかし最終曲にはひときわ抽象的な語、"the realization"(実現、実情の認識)が据えられてしまっている。
Mooreがどういった結末を想定していたのかは、聴き手には明確なかたちで共有されない。

"the realization"では、ループするノイズがまるで頭の周りを離れない虫のように……9分弱もの間まとわりついてくる。
引き裂くような音色は"the upstairs"でも採られているが、
こちらは果てのない広がりを冷たく示すかのように響き渡っている。
対して、閉じた環を巡るばかりの、この引き裂きの力が語りかけてくるものとは……?
主体は最後にようやく気付いたのではなかろうか、
自分が力を込められる範囲の具体的な広さに。


それでは、この作品は主体が己の世界に閉じ沈みこんでしまう、バッドエンドを提示しているのだろうか。
先にも紹介したRollingStoneに掲載の声明には、あと少しだけ続きがある。

“Screen time is now time, it is always time for change. A change for the better. What better time than now. Create, instigate, debate, never hate, sleep late, embrace fate, make a movie date, destroy and skate.”

引用元: Thurston Moore Releases Surprise New Instrumental LP 'Screen Time' - Rolling Stone

前半に着目する(若干意訳気味)。
映画を観ているとき、それは映画のなかでの「今」を観ているときでもある。その「今」は、常に変化している。
より良い向きへの変化。
今は、絶好のときだ。
*1
眼前に広がるものごとの移り変わりを正しく認識し、手を伸ばせるところまででも関与してゆけば、
わたしたちはきっと、Mooreがここに挙げきらなかったことだって行える。
生活のなかで。

バンドマンに対する憧憬の言葉や解いているクロスワードパズルの写真なんかとも並列の、生活の距離感で、
現在のアメリカで起きている出来事を受けて自身の内側から湧きあがってくる関心・危機を捉え、
その都度SNSでもシェアしているMooreであるため、
今回引用したメッセージからもアジテートのニュアンスはあまり感じられない……贔屓目はかなりあるかもしれないが……。


そしてこんな解釈になんか閉じなくとも。
対応する"the station"と"the walk"のように、時間芸術としてねらいが掴みやすい点もあり、
一聴してああいつもの……となる、しかし格別のお馴染みを体験できる"the dream"があり。
インプロ作品ではありますが敷居は高くなく、Mooreの職人肌を身近に感じられる作品です。
正直『By The Fire』より聴いています(……)。



作品紹介もどきの記事を書いたのはかなり久々だったみたいです。がんばっていきたい……。


追記(蛇足):
英文の読解、正確さにマジで自信がないので……ご指摘お待ちしてます🙇‍♀️

*1:What better time than now』で検索するとレッチリの"Guerrilla Radio"の歌詞がヒットするけど、関係あるのかしら?