久し振りにこれ面白かったなと書き起こしておきたい内容の授業だったので。
6/26の晩御飯のおとも
放送大学 生物の進化と多様化の科学
寄生について。
どのような生物も、他の生物・環境と関わって生きている、生態系の一員である。
しかし、その『関わり』のかたちは様々である。
利害的な観点で二種類の生物間における相互作用をみると、以下のようなマトリクスを描ける。
+ | - | 0 | |
---|---|---|---|
+ | 相利 | ||
- | 寄生 捕食 |
競争 拮抗 |
|
0 | 片利(偏利) | 片害(偏害) 抑制 |
中立 |
※捕食と寄生、イメージでは別物のようであるが、前者が大きな生物が小さな生物の体を栄養源として利用する、後者は小さな生物が大きな生物の体を栄養源として利用する、といった関係性であるため、本質的には同じ関係であると見ることができる。
寄生関係
先述のような片方に得が、片方に損がある関係を寄生と呼ぶが、
その実現方法もまた、多岐にわたるものである。
利用する資源の種類
- 栄養寄生
- 捕食寄生
- 労働寄生: イソウロウグモ(ジョロウグモのような大型の蜘蛛の巣に住み、家主の食べないような小さい虫を食べる)
- 社会寄生: サムライアリ(他種のアリの巣に攻め入って蛹や幼虫を連れ帰り、自分達の巣で奴隷のように労働させる)
寄生部位
- 外部寄生: ヒトジラミ(ヒトの皮膚に取り付き吸血)
- 腸内寄生: カイチュウ(ヒトの腸内に棲息)
- 内部寄生: アオムシサムライコマユバチ(生きているモンシロチョウ幼虫の体内に卵を産む、生まれた幼虫はモンシロチョウの幼虫の体内を食い荒らす)
- 細胞内寄生: ボルバキア(昆虫の細胞内に感染。詳しくは後述)
相互作用の必須性
- 絶対寄生: 寄生状態でなければ生きられないもの
- 任意寄生: 自由寄生も可能
感染様式
- 水平感染: 血縁のない異なる個体への感染
- 垂直感染: 親から子への感染
共進化
寄生者と宿主との間には利害対立が存在する。
宿主もただ寄生されて損を被るばかりではいられないため、防御機構や物理的障壁を進化させる。
しかし、寄生者もそれに伴い侵入や宿主の探索に特化する方向へ進化をする。
このように、双方が様々な性質を進化させていくことを共進化という。
これが進むことも、寄生者-宿主の組み合わせが特異的になることの要因のひとつとなる(宿主特異性)。
寄生者による宿主の操作
寄生者の中には、寄生によって宿主の行動や形態、生殖などを操るものがある。
幼生の状態で水生昆虫に寄生し、成虫となった水生昆虫を食べたカマキリなどの体内で成長する。
繁殖ができるまで成長すると、今度は水中で卵を産む必要が生じるため、
宿主のカマキリ等が水中に飛び込むよう、行動を操作する。
ちなみに、これによって飛び込んだ宿主昆虫は、水の中に住む魚等にとって重要な栄養源となる(渓流魚の食べる昆虫の6割はこの宿主昆虫であるという報告もある)。
- アブラムシ
植物の組織を利用して虫こぶを作り、その中の空洞で棲息・吸汁を行う。
同じ植物の組織を使っていたとしても、虫こぶの形はアブラムシの種類によって大きく異なる。
※内容ちょっとずれますが、アブラムシの虫こぶ修復の仕組みについての報告。アブラムシはやばい
- ボルバキア
宿主となる昆虫の卵細胞中に寄生する細菌。
卵形成段階で取り込まれ、垂直感染によって母から子へとうつる。
ボルバキアのような感染例は母性遺伝と呼ばれるもので、垂直感染における常套手段である。
なぜ父親由来の精子による感染をとらないのか、それは精子がとても小さく、寄生細菌の入るような余地が細胞質にないためである(なお、共生細菌やミトコンドリアのような遺伝因子も同様)。
となると、このような細菌はオスに感染してもまったくメリットがない。
そのためボルバキアは、宿主のメスに感染するための仕組みを特化させるよう進化をしたのであった。
- 宿主を単為生殖に促す
タマゴヤドリコバチには雌雄による有性生殖をする集団と、メスのみで単為生殖をする集団がいる。
この単為生殖集団はボルバキアに感染しており、ボルバキアを除去するとオスを生み、有性生殖を回復するようになる。
- 宿主を性転換させる
ヨーロッパにおいて、子孫が全てメスになる個体からなるダンゴムシ集団が見出されることがある。
この集団もまたボルバキアに感染していたのだが、この例においては、
集団のメスの中に遺伝的にはオスだがメスとしての基本的機能(卵巣が発達し、オスとの交尾ができ、子孫を残せる)を備えた、性転換によるメス個体の存在がみられた。
やはりボルバキアを除去すると、れっきとしたオス個体が生まれてくようになる。
- オスの卵を孵化させない
テントウムシは卵を密集させた形(=卵塊)で産む。
このテントウムシがボルバキアに感染していると、その卵塊のうちオスが入った卵は初期発生段階で死んでしまう。
するとメスのみが孵化するのであるが、幼虫というものは弱い状態であるため、死亡率が高い。
そこでオスの卵の出番となる。
テントウムシは幼虫の時分から肉食性であるため、生まれた場所に孵化しないままの卵があるとなれば、それを食べてしまう。
オスの卵を食べて栄養を得たボルバキア寄生メス幼虫の生存率は、向上するのであった……。
ボルバキアにとってはメスが増えることは都合が良いことだが、
勿論、宿主にとってはメスばかりが増えるといった状態は好ましいものではない。
メスが過剰になることで交尾の機会に恵まれないメスの割合が高くなっていくため、種としては縮小の方向に向かってしまうためである。
特に最後のテントウムシの例では、産んだ卵の半数となるオスの卵が全滅する上、感染したメスが環境に広がっていくため、端的に言って大損害である。
とどめとして、ボルバキアはある宿主のパターンにおいて細胞質不和合を引き起こし、卵の死亡を促すといった仕組みまで有している。
宿主となる生物における両親のボルバキア感染/非感染パターンを考えると、4パターンが挙げられる。
非感染♀ | 感染♀ | |
---|---|---|
非感染♂ | 卵は孵化 | 卵は孵化 |
感染♂ | 卵は死亡 | 卵は孵化 |
仕組みとしてはもう上記のマトリクスのままなのだが、酷い話である。
毎世代、感染しているメスが繁殖に有利となると、ボルバキアの繁栄は留まることを知らない状態となってくるのも自明である。
※調べてたら今回の授業担当されてた講師の方による記事が出てきた。共生は次回授業のテーマだったような
ヒトに対する行動の操作
昆虫に寄生するボルバキアが生殖の仕組みにまで介入していく様を見てきたが、ヒトもまた、寄生者による行動の操作を受けることがある。
例えば、細菌やウイルスの働きによって引き起こされるくしゃみや下痢などがある。
くしゃみなどは体に入った異物を迅速に排出するための、生理的な仕組みではあるのだが、
細菌やウイルスはより自分達が効率よく散布されるために、それらの反応の引き金を引く手段を進化させてきたのである。
寄生者の積極性な作用により宿主に引き起こされる表現型は、その表現型の要因となる生物からのつながりを意識し、延長された表現型と呼ばれている。
そんなに一緒になることもなかったはずの帰り道、道端にカマキリを見つけ嬉しそうに水をかけながらハリガネムシのことを教えてくれた昔の同級生はお元気だろうか、ちょっと思い出してしまった。
6/26の晩御飯
最近晩御飯の直後に朝御飯食べてる。